インドカレー屋

ヨガの根本経典『ヨガ・スートラ』には、次のような言葉があります。

「プラクリティはプルシャに経験と解放を与える」

目の前の世界は、常に変化しています。この変化するエネルギーのことをプラクリティといいます。そして、プルシャとは「真我」つまり「本当の自分」のことです。私たちは、このプラクリティにより様々な経験を与えられ、本当の自分、本当の幸せに近づいているのです。

 

目の前に差し出されることは、楽しいことばかりではありません。嫌なことや怖くて避けて通りたいようなこともあります。避けて通りたいと思うのは、その対象をよくわかっていないからです。わからないままにしておけば、そこから先は何も進みません。しかし、勇気を出して経験してみれば、その先には新しい可能性が広がっているかもしれませんし、新しい自分を発見できるかもしれません。本当の幸せが待っているのかもしれません。

 

例えば、初対面の人と話すのは緊張するものです。相手がどのような人かわからないからです。ただ、話していくうちにその人となりを知り、話しやすくなるはずです。もしかしたら、とても気が合って仲良くなれるかもしれません。または苦手なタイプかもしれませんが、それはそれで「この人はそういう人だ」ということがわかります。経験することで、新しい人脈を得る可能性も広がっていきます。

 

自宅の近くに一軒のインドカレー屋さんがあります。よくお店の前を通るたびに店内に目をやるのですが、いつもお客さんは一組か二組しか入っていません。インド人の店員さんもとても暇そうに見えました。お店の内装はあまりおしゃれではなく、窓の外に貼ってあるメニューや看板は少しくたびれた感じです。「そんなに良いお店ではないのかな」と思い、以前から気になってはいたものの、一度も入店したことはありませんでした。

しかし、先日、勇気を出して入ってみることにしました。その日も、休日にも拘わらずお客さんは一組だけでした。私は少し緊張しながらも、一番オーソドックスなランチセットを注文しました。頂いたのは、大きなナンとカレー、サラダ、チャイです。休日のランチにしては安い値段でした。しかも、とても美味しくて店員さんも感じのいい人でした。ためらわずにもっと早く入ってみればよかったと思いました。

 

もしこの先もこのカレー店を眺めるだけで終わっていたら、近所にある美味しいお店を発見することはできなかったでしょう。また、このお店に入ったことで「行ったことのあるインドカレー屋さん」を一つ増やすこともできました。

 

このように、経験しなければわからないことはたくさんあります。そして、目の前に差し出されているのにそれを最初から拒否して避けて通ることは、とてももったいないことです。もし、気になっているけれど入るのをためらっているお店があったら、勇気を持って飛び込んでみてください。話しかけたい人がいるのにためらっているのなら、思い切って声を掛けてみてください。きっと、新しい世界や新しい自分、本当の幸せが待っていることでしょう。

 

余談ですが、このインドカレー屋さんの名前は「シッダールタ」といいます。ちょうどその時、私はヘルマン・ヘッセの小説『シッダールタ』を読んでいる最中でした。

 

※この記事は、リラヨガインスティテュートHPの「今月の小話」にも掲載されています。
http://www.lilayoga.jp/instructor/kobanashi.htm#a201311

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